スペシャルコンテンツ
CROSSTALK
腎疾患治療・維持透析の
レベルを向上し
「一人の患者に最善を尽くす
医療」を追求
※月刊「リクルートドクターズキャリア(株式会社リクルートメディカルキャリア発行)」2020年4月号より
1974年、透析専門診療所からスタートした医療法人社団 善仁会は、東京都・神奈川県を中心に、腎疾患治療に特化する2病院と多数のクリニック、健診センターや介護老人保健施設等を展開するグループへと成長した。その医療の現状とこれからの社会における役割、新たに入職する医師への期待等、同法人を代表し3名の医師に自由に語ってもらった。
横浜第一病院 院長
大山 邦雄
Kunio Ôyama
吉祥寺あさひ病院 院長
有村 義宏
Yoshihiro Arimura
新横浜第一クリニック 院長
吉村 吾志夫
Ashio Yoshimura
CHAPTER 01
法人内外での連携を強めることで
患者に最善の医療を提供したい
今回は吉祥寺あさひ病院院長の有村先生、新横浜第一クリニック院長の吉村先生と、横浜第一病院院長の私で、善仁会についてのお話をしていきましょう。
3人の中で一番の“古株”は私で、善仁会との関わりはもう30年。当法人が東京で初めてとなる透析施設を吉祥寺に設立した時、外勤として関わりました。その後、新設の施設がどんどん増え、今は東京・神奈川に多数の施設がある大きなグループに発展しました。
吉祥寺あさひ病院は、そのグループ内の1つですね。
当院は善仁会東京地区の基幹病院。腎臓疾患治療・維持透析の専門病院であり、維持透析患者のリハビリ、急性期病院からの治療継続や法人内外のクリニックからの紹介等を積極的に受け入れています。「維持透析に、いかにきちんと取り組むか」を常に考え、診療レベルの向上を目指しています。バスキュラーアクセスセンターの手術件数も増加し、年間1,000件超。腎疾患専門の病院は数少ないため、地域で大きな役割を担っています。
横浜第一病院は当法人神奈川地区の基幹病院であり、規模・提供する医療は吉祥寺あさひ病院とほぼ同じ。透析とバスキュラーアクセスの造設が多く、神奈川地区のクリニックのシャントトラブルや入院に対応しています。全国から紹介があるバスキュラー手術は、昨年は5,500件程。私は当法人のバスキュラーアクセスの貢献度や透析に関するレベルは、全国的に見てもかなり高いと思います。
善仁会のクリニックは透析が中心ですが、私自身は元々保存期が専門で、その領域を充実させたいと考えているため、新横浜第一クリニックでは外来も行っています。新横浜駅が近く、旅行透析や老人ホームからの依頼等、臨時透析も多くあります。入院が必要な場合は横浜第一病院に依頼しています。クリニックでは常勤医師は基本的に院長一人なので、何かあった時にはすぐに頼め、バックアップしてくれる病院があるのは良いですね。
患者さまに最善の医療を提供するのが当法人の目的ですから、法人内外での多様な連携はとても重要です。クリニックのバックアップはもちろん、院内で整形外科、皮膚科、糖尿病内科、泌尿器科、神経内科等が連携し、お互いに相談できる体制を構築しています。そして当法人で最善を尽くし、それでも足りない場合は大学病院等に紹介する。一方で肺炎等で急性期病院で引き受けられない患者さまを受け入れ、高次治療が終わっても自宅に帰れない人は、当院でリハビリしてお戻しする、ということも行っています。
当院も外来に各専門家を揃え、合併症等すぐに相談できる体制です。また近隣の杏林大学医学部付属病院、武蔵野赤十字病院、東京都立多摩総合医療センター等と緊密な連携があり、重症患者さまを紹介し、落ち着いた患者さまを当院で引き受けています。最近はグループ外施設からのバスキュラーアクセスの手術や入院の相談が年々増加し、地域の透析クリニックの先生方からの信頼の厚さを感じます。
CHAPTER 02
グループの強みを生かし、
全体の診療レベルの向上を図る
2ヶ月に1度、東京の法人内クリニックの先生が当院に集まり、最新の医療情報の交換や、課題解決の話しあいを行っています。これはグループであることの強みですね。
当院もクリニックからCT等の検査のオーダーを受け、それを専門家が読影して返すという連携をしています。ですからクリニックの院長先生方は、孤立して一院を背負うのではなく、他と協力しあっているという感じではないですか。
そうですね、毎月1回、横浜第一病院の診療会議に神奈川地区のクリニックの先生方が集まって発表しあうなど、顔を合わせる機会もありますし。
クリニックは独立して各院長先生の個性を生かした治療を行っていますが、一方で貧血管理・水分管理等はグループ全体の方針で行っている。栄養管理については、横浜第一病院と当院の栄養部スタッフが、心エコーは専任の技師が各クリニックを回っています。
スタッフ間の連携も強く、看護部・臨床工学部等各部署が全体を見て、常に知識や技術の向上を図っています。医師がいくら頑張っても、全スタッフが連携し、レベルを上げていかないと、透析医療はレベルアップできません。
私も当院に来て、職種間の連携の良さを強く感じました。例えば病棟では毎週、医師・看護師・栄養士・リハスタッフ・ME・患者さま相談室、事務職員等が集まり多職種間のカンファランスを行い、患者さま一人のことをディスカッションし、患者さまにとって一番良い方法を決めます。透析、外来等各部門でもそれぞれ多職種カンファランスがあり、それを通じて職種間連携がうまくいっている。2019年からは職種を超えた透析サポートチームを立ち上げ、一人の患者さまに様々な職種からのアプローチをしており、成果を上げています。また、当法人の皆さんは、アカデミックな志向があり、全職種が参加する善仁会研究報告会等の研究・発表が盛んで全体のレベル向上に役立っています。学会発表に対しても積極的で、2019年は内科、バスキュラー、リハ、ME等含め10件の演題が日本透析医学会で採択されました。
私事なのですが、2018年に大学病院に入院したのです。そこは非常に雰囲気が良く、スタッフが必ず患者さまに自己紹介してから仕事を始めており、それが患者さまに非常に安心感を与えていました。また、当院でも実践していますが、廊下ですれ違う時、職員同士でも「おはよう」「お疲れ様」と声を掛けあっており、感じが良かったですね。どの施設でも、こういったことが一番できないのは医師なのですが(笑)。当法人では法人内監査があり、各クリニック・病院で設備から接遇や雰囲気まで、病院機能評価に近い評価を行い、レベル維持に注力している。
クリニックにも2ケ月に1度の監査が来ますよ。また? というくらい(笑)。
総合評価は毎年順位で発表され、スタッフはそれがモチベーションになり「良い評価をとろう!」と頑張っています。
CHAPTER 03
腎臓・透析を広く学び研鑽を積め
希望に沿った働き方が選択できる
私は「医師だけが全力で走っても、決して良い病院にはならない、スタッフとの関係を大切にしなければならない」と考えます。そのためには働きやすい職場作りも大切で、沼津にいた時から「職員が楽しくやりがいをもって働ける職場でないと、患者さまは安心できない」と言ってきました。医師もスタッフも誰もが働きやすい明るい病院にしたいのです。
当法人の医師の働きやすさと言えば、勉強ができることと選択肢があること。その気になれば2つの病院で移植以外の腎臓全てを勉強でき、透析に特化したいならばクリニックという選択肢があります。
日本腎臓学会や日本透析医学会の専門医が揃っているので、討議しながら自分の技量を高めていけるのは大きな特長です。専門職として興味を持った分野での研鑽ができるのでは。慢性期治療は急性期と異なり、合併症や認知症等をふくめた総合的な力が必要ですので、そういった能力を高めたい方、学びたい方にとっては幅広く学べる環境です。
それから、クリニックを空ける時や休みを取る場合、本部が代理の医師を探してくれるのが良い。自分で探すのは大変ですから。
それも大きいですね。私が当法人に来る時の条件の1つが、「代理の医師探しはしないよ」ということでした。以前の病院では三次救急も行っていたため医師探しに苦労して、周りの先生方にも迷惑をかけ、探し疲れ果てましたから。当法人では本部がしっかり動いてくれ、自分で探したことはありません。新たに入職される方も、心配無用です。
医師の働き方改革も求められており、多様な働き方がある時代ですから、そういったことは大事。当法人では子育て中の医師が病院の常勤やクリニックの院長として週4日勤務や時短勤務で働いています。各家庭の事情に対しても融通をきかせ、条件にあった働き方を提供できると思います。
私たちの若い頃は医師は家に帰れないのが当たり前で、“ドクターズウィドゥ”という言葉がありました。しかし今は、シェアして分担していく時代。当法人では当直は信頼して任せられる非常勤の先生にお願いしており、常勤医師の当直はありません。勤務時間が決まっており、休暇も規定通りに取れます。
そこで空いた自分の時間を、存分に生かしていただきたいですね。
CHAPTER 04
患者とつながる臨床の面白さ
やりがいがあるクリニックの院長
当法人のクリニックは、非常勤の先生はいても常勤は院長一人。主治医としての責任を感じるのではないですか?
むしろ、患者さまとのつながりが強く、全てを自分一人で診られることに、臨床という面での面白さを感じますね。
患者さまと近いということは、何かと気を使いませんか。
大学病院では患者さまはあまり医師に意見は言いませんが、クリニックでははっきりおっしゃいます。私が患者でも言いますけれど(笑)。クリニックでは医師は「上から目線」ではなく、患者さまと同じ目線で話さないと仕事になりません。他者とのコミュニケーションが取れ、アクティビティが高く、仕事が好きな人なら、クリニックの院長はやりがいがあります。若い方は院長というと、尻込みするかもしれませんが、私は患者さまとのフラットな会話や関係づくりは、若い先生のほうが上手なのではないかと思います。
若い方にはそういう人間関係をつくる「臨床の面白さ」をぜひ知ってほしいですね。院長がうまく人間関係をつくれると、スタッフが周囲を固められ、さらに患者さまと良い関係ができる。クリニックでは医療的な技量だけではなく、人としての信頼関係を築けることが大切です。医師が一人でできることは限られており、スタッフと協力しないと今の医療は成立しませんから。
CHAPTER 05
透析を取り巻く環境の変化に対応
急性期と在宅の間を埋める存在に
これからの善仁会の方向性については、お二人はどうお考えですか?
当法人は血液透析が主体で、法人外から依頼された血液透析患者さまも多くいらっしゃいます。しかし、今後の透析医療の流れを考えると、腎不全保存期の患者さまを自分たちで診て、透析導入することにも力を入れていく必要性を感じています。
吉村先生のおっしゃる、「CKDから診る」ということも、非常に大事です。当院でもCKDから診ていく方向で強化を図り、法人内はもちろん、医師会や開業医の先生方との連携を強め、腎臓内科の外来患者さまを増やそうという取り組みを行ってきました。神奈川県のクリニックの先生・スタッフの方々と懇談会を行い、どういった形で善仁会の医療を高めるか相談しようという会を発足したところです。和気藹々とした良い会となりました。
腎臓内科外来に患者さまが来る一番の理由は、「透析に移行したくない」から。それに応えるためには、保存期のレベルも上げないといけませんね。「なるべくやりたくない」なら、「なるべくやらないように」したい。その結果、外来患者さまが増えれば、結果として透析患者さまも増え、増患につながるのでは。
課題というなら、高齢化対応もありますね。当院でも患者さまの平均年齢が上がり、独居の方も増えてきています。
現在、透析患者数は減少段階に入っており、患者構成も変化し高齢・寝たきりの方が大半を占めています。患者さまの多くは合併症で全身に様々な問題を抱えており、腎臓が悪いだけの方はほとんどいない。高齢患者さまにどう対応するか、法人全体で考えねばなりません。
私が医学部に入学した頃、内科病棟では60代は“お年寄り”でしたが、今の病棟ではまだ“若い”と言われる。70〜80歳は現役で、その年齢からの透析導入は当たり前になっていますから。
当クリニックの患者さまも2割が車椅子で、認知症が始まっているのではないか?という方も少なくありません。患者さまの送迎も行っていますが、それでも独居の方が来院しなくなることもあり、スタッフが交代で迎えに行きます。家まで行き返事がないので警察の方にも来ていただいたら、高カリウムで亡くなっていたということも。クリニックに来て初めてそのような経験をし、「こんな世界もあるのか」と驚きました。
当法人では透析患者の高齢化から目をそらすことはできず、透析を行いながらどうやってその人の生活を支えるかを考え、日常的な高齢者のケアというものに重点を置く必要があります。政府は「在宅」を奨励しますが、自宅に戻したら家族の負担が大きく共倒れするケースも多いのです。それを“退院したら知らない”とは言えません。退院後の介護が必要な人や入院が必要な長期療養のための施設が不十分な現状、「急性期と在宅の間に入って何とかしていく」のが、これから善仁会の役割となっていくのではないでしょうか。また、一方で当法人には腎部門、老人医療福祉部門、健診部門がありますので、透析の前段階の若い人の健診にも力を入れたい。そして、世代にかかわらず専門医療が必要な人を吸い上げていくことが重要になるでしょう。そうなると、医師の活躍の場もさらに広がっていきますね。
当法人には腎臓専門・透析専門の先生が増えており、診療レベルが上がっていると感じます。今後は一層、やりがいと働きやすさがある職場づくりを進め、さらに各部署の診療レベル向上を図っていくこと、そして善仁会全体が発展していくことが大事だと思います。
そのためにも私たちが目指し実践している医療に共感してくれる医師に、ぜひ、力を貸していただきたいと思います。
座談会参加者プロフィール
横浜第一病院 院長
大山 邦雄
1974年/東京大学医学部医学科 卒業
1977年/東京大学医学部第1内科 入局
1986年/THE UNIVERSITY OF TENNESSEE 留学
2005年/国際医療福祉大学附属三田病院教授、副院長
2007年/沼津市立病院 院長
2013年/横浜第一病院 院長
資格:日本内科学会認定医、日本腎臓学会学術評議員・指導医および認定専門医、日本医師会認定産業医
吉祥寺あさひ病院 院長
有村 義宏
1978年/杏林大学医学部 卒業
1985年/杏林大学医学部付属病院第一内科 医局長
2010年/杏林大学医学部第一内科教授
2017年/吉祥寺あさひ病院 院長
資格:日本リウマチ財団登録医、日本リウマチ学会功労会員・認定医、日本内科学会認定医、日本腎臓学会功労会員・指導医・認定専門医、日本透析医学会指導医・認定医
新横浜第一クリニック 院長
吉村 吾志夫
1984年/東京大学大学院医科学系研究科・医学部 卒業
1984年/昭和大学藤が丘病院腎臓内科入局
2008年/昭和大学藤が丘病院腎臓内科教授(医長)
2016年/新横浜第一クリニック 院長
資格:剖検医、日本内科学認定医・指導医、日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医
学会認定医・指導医、日本病態栄養学会専門医
- HOME
- スペシャルコンテンツ
- 腎疾患治療・維持透析のレベルを向上し「一人の患者に最善を尽くす医療」を追求